エアラインなどのサービスランキングが発表されたのですが

CC BY_NC betta design flickr
CC BY_NC betta design flickr

経済産業省よりエアラインやその他の日本の主なサービス業界を総合したサービスランキングが発表されました。
顧客満足度の中でエアラインの評価では、

1位 シンガポール航空
2位 スターフライヤー
3位 ANA

という結果となりました。
皆さんのエアラインの印象と比べて同じような感じかもしれないですね。

・・・って、この時点でおかしくありませんか?
日本の主なサービス業なのにシンガポール航空です。

この調査の方法を詳しくみていくと、いろいろとおかしな部分が見えてきました。
 

経済産業省のサービス業ランキングの概要

この調査は、経済産業省の委託を受けてサービス産業生産性協議会が行い平成22年3月16日に発表されました。
経済産業省 サービス生産性協議会による日本版顧客満足度指数(JSCI)調査結果発表

この調査は、正確にはJCSI(日本版顧客満足度指数)という名称で、

   ~利用者のべ10万人に聞いたサービス業29業界の優良企業~
JCSIを利用することで、従来のランキングなどとは異なり、業界内外の優れた企業の取り組みに学ぶことが可能になり、業界を超えたサービス品質競争により、サービス産業全体の生産性向上が促進されることが期待されます。

と説明されています。

顧客期待、知覚品質、知覚価値、顧客満足、クチコミ、ロイヤルティの項目について調査を行い、最終的な主な結果として顧客満足度上位企業50社が示されています。

経済産業省
経済産業省

企業の選定と業界の分け方

この調査では各業界ごとに企業が分けられているのですが、エアラインについては国際航空と国内交通に分けられています。

指数化対象の選定手順
1) 売上高をベースに、日本国内に一定数以上の利用者がいると思われる企業を業界単位でピックアップ。業界別の指数化対象企業数(5社~15社程度)の2倍程度の候補を選定。

対象企業選定条件:1年以内に2回以上利用したことがある

国際航空 JAL、ANA、ノースウェスト(デルタ)、コリアン、アシアナ、ユナイテッド、キャセイ
シンガポール、ルフトハンザ
国内交通 JAL、ANA、スカイマーク、エアドゥ、スターフライヤー、JR東日本、JR東海
JR西日本、JR九州、高速バス

 

ここで気になるのが、国際航空と国内航空にJALとANAが2重に入っていることです。
他の例ですと、全労済が生命保険と損害保険で2重に分類されていて、顧客満足度では18位と45位に同時にランクインしています。
つまり、JALとANAは国際航空と国内航空の2つのアンケートが行われていることになります。
その分顧客満足度にランクインする可能性が高くなっているのです。公平さに欠けます。

各業界で見ると国際航空では日本の企業についての調査でありながら、海外の企業も候補となっています。よく理解できません。

国内交通について見ると、日本の主なエアラインと、JR、高速バスが候補に入っています。
近郊鉄道という業界が別に設定されているので、この場合の「JR」とは新幹線のことを指しているのだと思いますが非常にあいまいです。
また、「高速バス」についてはもはや企業ではありません。
本当によくわからない業界分けです。

国内エアラインで不思議なことは、スカイネットアジアが入っていないことです。この調査では、売上高ベースで選んだいくつかの企業の中から、1年以内に2回以上利用したことがある人の多い企業を対象にしています。単純に企業の売上高、搭乗者数で比較すると、健全な調査なのであればスターフライヤーよりもスカイネットアジアのほうが利用者数が多くなるはずなのですが。こうなった理由はおそらく後に書く「アンケート方法」にあると思います。
 

利用者のべ10万人

利用者のべ10万人に聞いたというのはかなり多いサンプル数だと思われがちですが、実質は1企業については300人分です。

・本調査回収、約25,000人:1企業あたり300件+α の件数を確保(件数到達時点で打ち切り)

統計的に300というサンプル数が有効なのかはわかりませんが、おそらくANAの場合だと総利用者数の0.1%以下でしょう。
 

エアラインのランキングを見た場合

エアラインのランキングは上で示したように、1位シンガポール航空、2位スターフライヤー、3位ANAです。
これを業界別で見ると、国際航空からはシンガポール航空のみがランクインしており、他の国際航空企業はANAを含めランク外です。つまり国際交通としてのANAはランク外ということになります。
では国内交通はどうかというと、1位は高速バスです。すべての国内エアラインは高速バスという企業ではないものに負けているという奇妙な結果になっています。

ちなみに、このアンケートが行われた時期(2009年10月)は破綻しかけのJALをどうするかという問題が連日報道されていた時期でした。その1年前だったらJALもランクインしていたかもしれません。
 

最大の問題点

最もおかしいと感じる部分が、アンケートによる調査方法です。

2.調査方法 インターネット・モニターを用いた調査 (2段階にて回答者を抽出:数字は第1回調査での事例)
・第1次抽出、約60万人:モニター全体約150万人から年齢別・性別・地域別の人口構成を配慮した上で無作為抽出し、利用経験の有無を確認。
・第2次抽出、約7万人:「直近に該当企業の利用経験がある」方のみを対象(抽出母数は約30万人:経験の有無を答えて頂いた方々)に、サービスの具体的な評価について回答を依頼。
・本調査回収、約25,000人:1企業あたり300件+α の件数を確保(件数到達時点で打ち切り) -回答傾向などで不正回答の可能性が高い回答者を排除し、正規回答者として分析に利用。

知っている方なら、ん、あれか?・・・と思われたかもしれません。
これは推測ですが、おそらくこのアンケートはアンケートモニターサイトによるものではないでしょうか?
アンケートモニターサイトとは、インターネットでアンケートモニターに登録し、送られてくるアンケートに答えるとお金がもらえるというものです。いわゆるお小遣いかせぎとして知られています。

このアンケートサイトについては長いので別に詳しく書きますが、
・モニター登録者に偏りがある
・実際にエアラインを利用していなくても回答できる
・細かく長いアンケートほど適当に答えるようになる
などの理由によって、非常に信頼性が低いと言えます。

モニターを用いた調査なので、実際に経済産業省あるいはサービス産業生産性協議会が調査を行ったわけではありません。
ミシュランが格付け会社としての信頼性が高いのは、ミシュラン自信が店に足を運び調査しているからです。
今回のようなインターネットでの調査に相応の信頼性があるのかは疑問です。
 

つまり何が言いたいのかというと

経済産業省というのは、日本という国の代表的な機関です。
日本だけでなく、世界中の機関の中でも充分信頼される機関と言えるでしょう。
そのような機関がこのような中途半端なランキングを発表するのはどうなのでしょうか。
よく中身を見ないとランキングの信頼性はわからないのですから、ランキングだけを見た人は、あの企業はいいサービスをしているんだな、と思いこんだり、ランキングに入った企業は、ランキングで○位に選ばれました!とPRに使うかもしれません。いわゆるお墨付きをいただいたことになります。
逆に中身を知った人は経済産業省への信頼をなくすでしょう。

そもそも、公的機関が企業の「顧客満足度」という抽象的なものをなぜランキング付けするのかがよくわかりませんが、経済産業省の委託を受けてサービス産業生産性協議会が行った、という説明を聞けばなんとなく理由はわかる気がします。

国の機関というのは、もっと厳格に、正確に仕事を行っているものだと思っていたのですが、
中身を見てしまうと残念としか言いようがありません。

アンケート方法についての詳細 アンケートサイトの信頼性について考えてみた

記事を書いていたら似たような内容のニュースがありました
観光白書まる写しで421万円 経産省委託事業の報告書

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。